かまぼこ 傘 夕焼け

コンビニを出たら、知らない男に声をかけられた。
「あの、傘、忘れてますよ」
そう言って男が指差す方向に目を向けると、300円もしなさそうな、安っぽいビニール傘があった。
見覚えがなかったので、「あれは俺のじゃないんです。すみません」とお礼ともお詫びともつかない返事をした。
「えっ、そうでしたか」
男は照れたように笑った。「誰の傘、なのかな」
「知らないよ。大体いつの傘かもわからない」
傘の置き去りなんてありふれているのになぜそんなに気にかけるのだろう。
「少なくとも、昨日はなかった」
「毎日確認してるのか」
この男の趣味に口出しをするつもりは一切なかった。流れで言っただけだ。
「毎日ってわけじゃ、ないけど」
「へぇ。それじゃあ、俺、帰るわ」
「あ、待って」
踵を返した途端、袖を捕まれた。振り返ると男越しに夕焼け空が見えた。橙に光る太陽が半分沈んでいる。綺麗だ、と思った。
「かまぼこみたいだ」
自然に言葉がこぼれた。
はぁ、と男が頓狂な声をあげている。
「なんでもない。帰る」
恥ずかしさを誤魔化すように男に背を向けた。
「待って。俺んち来ませんか」
背中を掴まれた。


「かまぼこはないよ」
男が笑い転げている。表札で確認したところ、佐藤と言う名前らしい。晩飯でも食べましょう、と言われて暇だからついてきたものの、てっきりマンションだと思ってたから一軒家を見た瞬間驚いた。どういう訳か家族は誰もいなかった。
「好きなんだ。仕方ないだろ。薄ーく切ったかまぼこを白米の上に乗っけて醤油かけて食べる。これが最高に旨い」
「えええ」




お礼ともお詫びとも〜が書きたかっただけ。
そして未完成。